外観検査の自動化を検討する際、カメラの画素数や画像処理のアルゴリズムに注目しがちですが、実はレンズの選定も検査精度を大きく左右する重要な要素です。

「高画素なカメラを使っているのに、なぜか検査が安定しない…」
「撮像位置が少しズレただけで、検出結果が変わってしまう…」

もし、このような課題をお持ちであれば、その原因はレンズの特性にあるのかもしれません。今回は、意外と見落とされがちなレンズの注意点、「レンズの中心と周辺では解像力が異なる」というテーマについて、その影響と対策を分かりやすく解説します。

>>画像検査(外観検査)における カメラ・照明・レンズ選定のポイント

なぜ?レンズの中心と周辺で映り方が違う理由

多くのレンズは、その構造上、レンズの中心部分が最も解像力(画像をどれだけ細かく鮮明に写せるかという能力)が高く、視野の周辺部分にいくほど解像力が低下するという特性を持っています。

これは「レンズ収差」と呼ばれる現象が主な原因です。難しい話は割愛しますが、レンズは光を屈折させて一点に集める部品ですが、特にレンズの端の方を通る光ほど、設計通りに一点に集めるのが難しくなり、結果として画像のボケや歪みとなって現れます。

この解像力の差は、微細な欠陥を見つけ出す外観検査においては、問題を引き起こす可能性があります。

解像力の差が引き起こす”3つの困りごと”

この「中心と周辺の解像力の差」を考慮せずに、視野(画角)いっぱいに検査対象物を撮影してしまうと、主に以下のような問題が発生します。

ケース1:偽欠陥の発生

レンズ周辺部のボケや歪みが、画像処理アルゴリズムによって「キズ」や「汚れ」「異物」として誤検出されてしまうことがあります。これにより、良品を不良品と判定してしまい、歩留まりの悪化に繋がります。

ケース2:欠陥の見逃し

ケース1とは逆に、レンズ周辺部に写った微細なキズや凹みが、解像力不足によってぼやけてしまい、画像として捉えきれずに見逃されてしまう可能性があります。これにより、不良品が市場に流出するリスクが高まります。

ケース3:検査結果の不安定化

検査対象物の供給位置がわずかにズレたとします。ある時は欠陥が解像力の高い中心部で捉えられ、ある時は解像力の低い周辺部で捉えられる、といったことが起こります。これにより、同じ欠陥でも検出されたりされなかったりと、検査結果が安定しなくなります。

【対策】レンズの特性を理解した撮像のポイント

では、どうすればこの問題を解決できるのでしょうか。対策は決して難しくありません。以下のポイントを意識してみてください。

ポイント1:余裕のある画角で撮る(最も重要!)

最も簡単で効果的な対策は、検査対象物をレンズの中心の「おいしい部分」で撮ることです。

具体的には、検査対象物が視野(画角)の7〜8割程度に収まるように、カメラと対象物の距離(ワークディスタンス)やレンズの焦点距離を調整します。解像力が低下しやすい周辺部を使わないことで、視野内のどこに欠陥があっても、安定して鮮明な画像を得ることができます。

画角いっぱいに撮るのではなく、中心部に余裕をもって配置するのがポイントです。

ポイント2:絞り(F値)を調整してみる

レンズの「絞り」を少し絞る(F値を大きくする)と、収差が改善され、周辺の解像力やピントが合う範囲(被写界深度)が向上することがあります。

ただし、絞りすぎると「回折現象」という別の要因で逆に全体の解像力が低下したり、取り込める光量が減ってシャッタースピードが遅くなり「ブレ」の原因になったりもします。最適な設定値を見つけるための調整が必要です。

まとめ

外観検査の自動化において、高画素なカメラの性能を最大限に引き出すためには、レンズの特性、特に中心と周辺の解像力分布を正しく理解し、それを考慮した撮像環境を構築することが不可欠です。

まずは「余裕を持った画角で撮る」という基本を徹底するだけでも、検査の安定性は大きく向上するはずです。